『くるみ割り人形』は、クリスマス・イブの夜に少女がくるみ割り人形と出会い、お菓子の国へ旅をするバレエです。1892年にロシアのサンクトペテルブルクで初演され、チャイコフスキーの音楽とともに、今も世界中で上演されています。

この記事では、原作や音楽の背景、第1幕・第2幕のあらすじ、有名な曲、見どころを順に紹介します。細部は上演する団体や版によって違うので、そこも整理しました。

ネタバレについて:あらすじの章では結末までを書いています。物語を知らずに観たい方は、「あらすじ」の章を飛ばして、「有名な曲」「見どころ」からお読みください。

※この記事は、バレエ『クリスマス・キャロル』を主催するAlexandrite World株式会社の編集部が執筆しています。

『くるみ割り人形』の基本情報

  • 作曲:ピョートル・チャイコフスキー
  • 初演:1892年12月18日(当時のロシア暦で12月6日)、サンクトペテルブルクのマリインスキー劇場。チャイコフスキーのオペラ『イオランタ』との二本立てでした。
  • 台本:マリウス・プティパ。振付はレフ・イワノフ(プティパが準備中に病気になり、イワノフが引き継いだとされます)。
  • 原作:E.T.A.ホフマンの童話『くるみ割り人形とねずみの王様』(1816年)を、アレクサンドル・デュマが翻案した物語(1844年)
  • 構成:全2幕の版が一般的
  • 上演時間のめやす:休憩を含めて約2時間(例:新国立劇場バレエ団の2026年上演は約2時間10分、K-BALLET TOKYOの2026年冬公演は約2時間5分)

原作:ホフマンの童話とデュマの翻案

もとになったのは、ドイツの作家E.T.A.ホフマンが1816年に発表した童話『くるみ割り人形とねずみの王様』です。クリスマス・イブにくるみ割り人形をもらった少女(原作ではマリー)が、夜におもちゃとねずみの戦いに巻き込まれる物語で、バレエより複雑で、ややこわい場面もあります。名付け親のドロッセルマイヤーが語る、くるみ割り人形の呪いの由来話も大きな柱です。

バレエが直接の下敷きにしたのは、フランスのアレクサンドル・デュマ(父)が1844年ごろに書いた翻案『くるみ割り人形の物語』です。筋はほぼ同じですが、家族の名前などが変わり、ホフマン版よりも読みやすい形になっています。バレエでは少女の名前がクララとなる版が多く、ホフマン版にあった長い挿話は、バレエでは整理されています。

チャイコフスキーの音楽と初演

1890年ごろ、帝室劇場の支配人フセヴォロジスキーが、『眠れる森の美女』の成功に続く新作としてチャイコフスキーに依頼しました。作曲家はこの題材をあまり気に入っていなかったと伝えられますが、1891年2月ごろから作曲を始め、1892年3月ごろにオーケストレーションを終えています。

ちなみに、演奏会用の組曲(作品71a)は、バレエの初演より前の1892年3月19日に初演され、好評でした。バレエの全曲を知らなくても、組曲で曲に親しんだ人は多いでしょう。バレエの初演は、観客には人気だったものの、新聞評では「妖精の登場が遅い」などと厳しい声もあったと伝えられています。全幕が広く親しまれるようになったのは、20世紀半ばの上演の成功がきっかけとされます(後述)。

あらすじ(第1幕・第2幕)

ここからは結末までのネタバレです。以下は初演の流れをもとにした一般的なあらすじで、版によって細部が変わります。

第1幕:クリスマス・イブの夜

  • シュタールバウム家でクリスマス・パーティーが開かれます。名付け親のドロッセルマイヤーが、少女クララにくるみ割り人形を贈ります。
  • 兄のフリッツが人形をこわしてしまいますが、人形は直されます。
  • 真夜中、クララが広間へ戻るとクリスマス・ツリーが大きくなり(クララが小さくなる演出もあります)、ねずみの軍勢が現れます。
  • くるみ割り人形は兵隊たちを率いて、ねずみの王様と戦います。クララの助けで人形が勝ち、人形は王子の姿になります。
  • 王子はクララを雪の降る松の森へ導き、雪の精たちが舞う中で幕となります。

第2幕:お菓子の国

  • 金平糖の精(原語のDragée Fairy、英語ではSugar Plum Fairy)が、二人を迎えます。
  • チョコレート、コーヒー、お茶、トレパック、葦笛など、世界各地のお菓子にちなんだ踊りが続きます。
  • 「花のワルツ」の後、金平糖の精と王子がグラン・パ・ド・ドゥを踊り、全員の踊りで幕を閉じます。
  • 初演版の終わりは、クララが家で目を覚ますという形でした。

筋は「夢のような冒険」ですが、物語を通して描かれるのは、おもちゃへの愛情と勇気、そしてクリスマスの魔法です。

有名な曲を知っておこう

  • 行進曲(第2曲):第1幕の前半、パーティーに子どもたちが入場する場面の曲。明るく親しみやすい曲です。
  • 雪の情景と「雪のワルツ」(第8曲・第9曲):松の森で雪の精が舞う場面。
  • 花のワルツ(第13曲):第2幕で踊られる、華やかなワルツ。組曲にも入っています。
  • 金平糖の精の踊り(第14曲c):きらきらした音色の楽器チェレスタが、主役の音になっています。チェレスタは、この曲が大きな作品で使われた最初期の例とされます。
  • トレパック、アラビアの踊り、中国の踊り、葦笛の踊り:第2幕のキャラクター・ダンス。短くて印象に残ります。

曲の番号は資料により異なる場合があります。ここでは日本語版と英語版のWikipediaの記載を照合しました。

見どころ

  • 子どもが活躍する第1幕:パーティーの場面など、子どもの役が活躍する版が多くあります。
  • ツリーの変化とねずみとの戦い:舞台の魔法を感じやすい場面です。
  • 雪の場面の群舞:大勢が揃って踊る美しさが際立ちます。
  • お菓子の国の踊りの数々:同じ幕の中で、いろいろな雰囲気の踊りが次々に出てきます。
  • グラン・パ・ド・ドゥ:男女二人の見せ場。技の切れだけでなく、気品も見どころです。

版(振付・演出)による違い

『くるみ割り人形』は、世界中のバレエ団が独自の版を持っています。大きく分けると、次のような違いがあります。

  • クララを子どもが踊る版:クララは子ども、金平糖の精は大人のバレリーナ。イワノフ版を継ぐ版に多いとされます。
  • クララを大人が踊る版:第2幕でクララが金平糖の精の役割を兼ねる形で、王子と踊るもの(ワイノーネン版など)。
  • 自由に再解釈する版:ノイマイヤー、マシュー・ボーン、ベジャールなど、物語を大きく書き換える版もあります。

日本の例では、新国立劇場バレエ団の2026年上演はウィル・タケット振付(イワノフの振付をもとにした新国立劇場オリジナル版)で、クララが金平糖の精となって王子と踊る筋立てだと公式ページで案内されています。マジックの演出も入ります。同じ作品でも版によって見え方が変わるので、観に行く前に公式ページのあらすじを読むのがおすすめです。12月の公演は12月に観たいバレエ公演【東京・2026】にまとめています。

よくある質問

上演時間は何分くらいですか?

音楽そのものは約1時間25分とされますが、舞台では休憩や拍手が入るため、約2時間が目安です。2026年冬の例では、新国立劇場バレエ団が約2時間10分、K-BALLET TOKYOが約2時間5分(いずれも休憩を含む)と公式に案内されています。

子どもでも楽しめますか?

子ども向けの上演も多く、物語がわかりやすい作品です。ただし年齢の目安は公演ごとに異なります。たとえばチャイコフスキー・バレエ劇場の『くるみ割り人形』は4歳以上と案内されています。購入前に公式の注意事項をご確認ください。

なぜクリスマスの定番になったのですか?

物語がクリスマス・イブを舞台にしていることが第一の理由です。さらに英語版Wikipediaによると、1954年にニューヨーク・シティ・バレエがバランシン版を上演して大成功を収め、アメリカで毎年の定番になったことが大きな転機でした。日本の定着の経緯については、今回は確認できていないため書いていません。

初めてでも、予習は必要ですか?

セリフはなく、踊りと音楽で進みます。大筋だけ知っておけば十分です。この記事のあらすじを読んでおけば、版が違っても流れはつかめます。

ほかにクリスマスの時期に観られる物語バレエはありますか?

当社が主催する『クリスマス・キャロル』も、クリスマスを舞台にした物語バレエです。12月5日(土)・6日(日)にMoN Takanawa Box1000で上演します(上演時間は約1時間50分、休憩含む)。『くるみ割り人形』との比較はこちらの記事(11月8日公開予定)で紹介します。

まとめ

『くるみ割り人形』は、1892年に生まれ、夢のような物語と名曲で愛されてきたバレエです。あらすじは単純ですが、版によって見せ方が大きく違います。まず大筋をつかみ、気になる版の公式ページを確認して、劇場へ出かけてみてください。

出典

文:Alexandrite World編集部/写真:Alexandrite World/情報は2026年11月2日時点のものです。